レジリエンスの未来

Vol.02「 Community Crossing Japan」その1 「よき避難者」によるレジリエントなマンションづくりを目指して

「よき避難者」によるレジリエントなマンションづくりを目指して

地域の縁をつくり課題解決を行うネイバーフッドデザインを進めてきたHITOTOWA INC.の代表取締役、荒 昌史さん。彼が東日本大震災後に立ち上げた防災減災研修を行うプロジェクトが「Community Crossing Japan(以下CCJ)」だ。研修をご担当されている吉高美帆さんとともに、そのコンセプトと活動の内容について伺った。

Community Crossing Japan オーガナイザー 荒 昌史(あら・まさふみ)さん
Community Crossing Japan
オーガナイザー

荒 昌 史 (あら・まさふみ)さん

被災地からの学びを都市の防災減災にフィードバックする

2007年からデベロッパーのCSR担当をしていたのですが、あいさつすらないマンションでは豊かさを提供できてないんじゃないかと感じたんです。そこで入居者同士のあいさつがあって、いざというときに助け合えるようなマンションをつくろうと考え始めました。当時は自然共生をテーマに「あいさつのあるマンション」の企画を行っていましたが、そうこうするうちに東日本大震災が発生したんです。復興支援はもちろんですが、自分たちの暮らしに対して、防災減災という面で危機感を感じました。そこで2011年9月、CCJを立ち上げました。首都直下型地震や南海トラフ地震が控える今、「地縁」──つまりご近所づきあいによって助け合う防災というスタイルを広めるという活動をしています。

「揺れたら何かの下にもぐる」「揺れが落ち着いたら外に出る」というような形で行われてきたこれまでの避難訓練では、どことなく避難するのって簡単だなと思わせてしまうような、現実とかけ離れた部分もあったと思うんです。この大震災で、それでは通用しないという実感を得ました。さらに、災害大国である日本では避難訓練だけではなく、その後に始まる避難“生活”訓練が大切です。災害自体をまず生き抜くための対策に加えて、家屋の補強や家具の転倒防止、火災および津波への対策はとても重要です。しかし仮に生き抜いたとしても、その後は順調に復興に向かっていけるとは限らず、中長期にわたる「避難生活」が待っている可能性があります。公的な援助が行き届くにはタイムラグや限りがありますから、自力で助け合って暮らしていかなければなりません。その時、「受け身で支援を待つのではなく、変化する状況のもとで主体的に適切な行動をとることができる避難者が助け合えること」が大切になってくるんです。CCJでは、被災地である宮城県や福島県に行って被災地で実際に起きた事例を収集することにこだわっています。そして、そこから得た学びを防災減災に生かしたいと思っています。

「よき避難者」の育成が、マンションのレジリエンス向上につながる

「レジリエンスの未来」のフューチャーセッションでは、「レジリエンス・マンション」というプロジェクトを提案しました。地震に強いマンションというととかくハード面の話になりがちですが、レジリエンスという面では、まず危機に直面し避難者一人ひとりが混乱する現場で適切な行動をとることができるかどうかということも大切だと思うんです。私たちはそういう行動ができる「よき避難者」を育成し、マンションにおける防災、特に共助を考えることがレジリエンスだと考えています。それに基づき、CCJでは大きく分けて4つの活動をしています。マンションデベロッパーや管理会社への防災コンサルティング、東北に行って被災地の現場で学ぶツアー研修の主催、月に一回どなたにも参加していただける防災勉強会、そしてお客様ごとにカスタマイズして行うワークショップです。これらの活動を通して、「よき避難者」を育成する防災減災研修をつくっています。


ワークショップの様子(CCJウェブサイトより)

マンションコミュニティは都市部における「最後のセーフティネット」

耐震性能の面で倒壊の恐れが小さいマンションであれば、震災時に助かるには、まず家具の転倒と火災の対策が肝心です。その次に大切になってくるのが、安否確認の仕組みですね。早期に発見できれば家具が転倒していても助けることができます。ただし、これはそもそも誰がどこに住んでいるのかが把握できていないとできないので、それが一つの壁となります。その後、けが人の応急処置などを経て、大きな震災の場合には避難生活が始まります。我々もそうなんですが、都心部の方々はほとんどがマンションなど何らかの共同・集合住宅に住んでいますよね。マンションに住んでいる方というのは、どこかですべて管理会社がやってくれるんじゃないかと

思っていらっしゃる方も多いと思うんです。ですが、管理会社にも限界があります。電気が開通してエレベーターが動いたとしても、物資が足りなかったり上下水道が使えなかったりする中では、マンションの中で情報を共有するなどのコミュニケーションをしながら、何らかの形で共同の避難生活を送る必要が出てきます。それを成立させるための入居者同士の関係性とリテラシーが必要になります。そして最初の7-10日間をどう過ごすのかがポイントになります。

災害時には情報や物資は小中学校や市民体育館などの指定避難所に集約されます。しかし、マンションやホテル、商業施設など多くの人が集まる場所で避難生活を送る場合、情報も物資も自分たちで指定避難所まで取りに行かなければなりません。指定避難所とそうでない場所の対策はすこし違ってくるんですね。

また、災害時を考えるとやはり人間関係は多い方がいいでしょう。最近は町会に入らないマンション管理組合も増えていますが、地域社会のつながりは持っていた方がいいと思いますね。そして、マンション入居者同士にも、必要最低限のコミュニティは必要になります。100世帯のマンションで100世帯全員が仲よくなる必要は全くないのですが、例えば10数世帯くらいの単位でいろんなテーマを持ったコミュニティがあればいいのではないでしょうか。その中にセーフティネットとして機能するための最低限のコミュニケーションや仕組み、そして意欲があるコミュニティがあればいい。季節のイベントや防災訓練などを通して、入居者の3割くらいが参加するような会が年に2回、3回あるだけでも十分なんです。こういったコミュニティづくりというのは、特に都市部ではマンションじゃないとできなくなっていることだと思うんです。

「共助」の単位として考えると、今の都市は人口密度が高いので、町会という形でそれだけの人数をまとめるには街に人数が多すぎるんです。10数人の理事で数千~万人の面倒を見るのは、簡単なことではありません。また、避難所のキャパシティに対して、収容しなければならない人数も多すぎます。そうなると、避難所が足りなくなって指定避難所ではない場所で生活する方もたくさんいらっしゃる。都内では容易にそういう状況が予想できます。そうなると、マンションというのは災害時の「最後のセーフティネット」になるんですよね。

マンションといっても、新築物件と既存物件があって、特に既存物件であらためてコミュニティをつくっていくことはとても難しいんです。新築であれば、みなさんスタートラインがいっしょなので、コミュニティをつくっていきましょう、防災をやっていきましょうと進めやすい。でも、既存物件だときっかけづくり自体も大変なので、我々もそこに関してどのように進めていくかを日々研究しているところです。防災訓練自体はマンションの管理組合に義務付けられているんですが、現在はそれが形骸化してしまっています。それを活性化させるのはマンションデベロッパー・管理会社の社会的使命でもあると思いますので、我々がその部分をお手伝いしていければと考えています。

今でも、私たちは防災の専門家な訳ではありません。我々自身も勉強している身なんです。そういう立場だからこそ、研修を受ける人の目線に合わせた「レジリエンスのあるマンション」を増やしていくための研修やワークショップを多くの方に提供していきたいと思っています。

Community Crossing Japan

共助のための防災減災研修を行い“よき避難者”を育てる
プロジェクト
http://communitycrossing.net

復興応援団

「地元の人が中心となった東北地域の復興を実現する」
をビジョンに活動する一般社団法人です。
http://www.fukkou-ouendan.com

HITOTOWA Inc.

ネイバーフッドデザインを行い、都市の課題を解決する
http://hitotowa.jp/index.html