レジリエンスの未来

2014.11.28 フューチャーセッション「レジリエンスの未来4」開催レポート

[第2部]多様な知識の集約
―「レジリエンスな未来社会を創るには?」を巡るイニシャルトーク―

第2部では、有識者や実践者によるお話をキーに全員でレジリエンスに関連するアイデアや知識を出し合い、共有します。官民学のそれぞれの立場から、3人のインスピレーションコメンテーターの方に「レジリエンスな未来社会」を巡ってショートトークをお願いし、引き続き対談が行われました。


各セクターから3名のコメンテーターによるインスピレーショントークが始まりました。

◎インスピレーションコメンテーター

服部 司氏: 内閣官房国土強靱化推進室 企画官
花田竹野氏: 株式会社ソトコト総研 常務取締役
庄野次郎氏: 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 所長

■服部 司氏(内閣官房国土強靱化推進室 企画官)

私からは現在、国が進めている「国土強靱化とは?」についてお話しします。
過去、幾多の災害を経験してきた日本は世界の中でも災害先進国と言われています。例えば第1回目となる国連防災世界会議は横浜、2回目は神戸、そして2015年の3月には仙台で開催されるというように、3回にもわたって国際的な防災会議が誘致されるという世界でも珍しい国です。それだけ災害が大きいということで、そこでの経験を発信することが求められているともいえます。


パブリックセクターからのトークは服部氏。

ところで、肝心の強靱化とは何か?といいますと、広い意味は防災・減災ということになります。しかし、従来からある地域防災計画では手順が決められているのに対して、国土強靱化では自然災害が起きたらどんなリスクがあるのかを考えることが出発点になっています。そこでは、起きてはならない最悪の事態として45の事象を想定し、その中から大都市での建物・交通施設等の大規模倒壊をはじめとする15のプログラムを選定して重点的に取り組んでいます。
国土強靱化というとどうしても公共事業と考えがちですが、実際は起きてはならない事態を避けるという想定ですから、津波なら防波堤を造ることが目的ではなく、避難方法や防災教育、さらには土地利用を高台に移転するなどソフトとハードの組み合わせて避けていく考え方でリスクを想定していることがこの計画の特長といえるでしょう。

■花田 竹野氏(株式会社ソトコト総研 常務取締役)

私が所属するソトコト総研は8月につくったばかりでして、ソーシャル&エコをテーマにしたソトコトという雑誌があります。約10万人の読者がおり、エコロジーな意識を持つ人たちを巻き込みながら様々な活動を行っています。
ソトコト総研と並行して私自身はここ4年ほど千葉で農業をやっていて、ちょうど3.11の東日本大震災時は里山で農業再生をやりながらエコビレッジを作っていました。
いま、世界ではエコビレッジが1万7千ほどあると言われており、昔はどちらかというと閉じたコミュニティだったのですが、現在はソーシャルネットワークサービスなどを通じて互いが繋がるようになっています。あるビレッジがクラッシュしても他の場所がバッファーとなり受け皿となって機能するようになっているわけです。
ところで私は竹のコミュニティにも参加しているのですが、実は「竹野」という名も農業を行う時のファームネームで、これは竹の持つしなやかさへのメタファーでもあります。資源の循環を通じて、持続可能性を担保しながら衣食住とエネルギーを確保することがエコビレッジの目指していることなのですが、例えばそういうことを全部できるのが竹なんですね。


ソーシャルセクターは花田氏によるトーク。

私たちの生活はすべてが石油資源漬けです。例えばホルムズ海峡を18ヶ月凍結されるともう干上がってしまい、食料を手にできなくなってしまいます。そこでこの竹を資源にして建築物を作ったり、繊維を取り出して服を作ったり、燃料を作ったり、さらには食料を作ったりといったことが、いま世界で起こりつつあります。
江戸時代には富士山や浅間山、箱根山などの噴火で冷害が起き、大きな飢饉が発生しています。こうした例を見るとわかるように、何かがポキッと折れたら一つの場所だけでなく全てが瓦解してしまいます。だからこそ、資源を巡って世界中で競争が始まっています。今こそ循環型の社会をデザインし、自分たちをどうしていくかを問うていく必要があるのではないでしょうか?

■庄野 次郎氏
(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 所長)

私はビジネスの観点からお話ししましょう。現在は大学内の研究所でレジリエンスという問題を戦略的なポジションから研究しています。研究対象には、1.ブラックスワンを洞察する、2.レジリエンス・ケイパビリティを高める、3.最終的には集合知システムを準備する、という3つの領域があります。


庄野氏は企業セクターの立場からのトーク。

一つ目のブラックスワンはナシーム・ニコラス・タレブの著作名で、それまでは存在しないと言われていた黒い白鳥が発見されたことから、予測不能な事態が発生した時の対処法を洞察することがテーマになっています。我々はそれをある種のヘッジ戦略として捉え、その対応能力に焦点を当てています。

2つ目のテーマとしてはレジリエンスケイパビリティが対象となります。これは3つの要素があります。一つはインパクトを小さくするための体制。その次が回復の時期を早めるための復元力の問題。最後は復元した後に、元の状態よりもっとよい状態になるためのイノベーション能力です。

3つ目は、そのレジリエンス・ケイパビリティを高めるための方法論として集合知システムを準備することです。ネットワーク社会では、限られた専門家による少ない専門知によって予測や対策を練るのではなく、今日のセッションのように多様な人が集って専門家を超えるような発見をしながら対策を打っていくようなシステムが必要だと考えています。そのファクターになるのは、名前も顔も知っているという「強い繋がり」以上に「弱い繋がり」に対する信頼と協力の体制だと考えています。
弱い繋がりとは経済原理や損得勘定ではなく、ボランタリズムのように家族、企業、地域を助けたいという普遍的な共通価値観をベースにしたビジネスモデルです。それには社会的価値に対する知性と知識による過去の経験値や新しい科学の力が方法論として必要です。それが集合知を生み、そこから専門知よりも優れた解決策が生まれる。それが現在起こりつつあるネットワーク社会による新たな解決策ではないかと思っています。


インスピレーショントーク終了後は、コメンテーター同士による意見交換の場が持たれました。

服部氏にはパブリックセクターとして全体の下支え役を、花田氏にはソーシャルセクターとしてどうやって互いが連携していくのかという視点で、そして庄野氏からはプライベートセクターとして、各々3つのセクターを代表した考えをお話ししていただきました。
ここではそれぞれの立場が明確になると同時に、立場が違えばお互いにトレードオフも生じることもわかりました。その点について、ファシリテーターの野村さんがさらに突っ込んだ討議を行っていきます。

野村氏:例えば国が強靱化するなら市民側はそのサービスを受ければいいやという発想になってしまわないでしょうか?また、花田さんや庄野さんのように個人の自立や企業の対応を説く立場から見ると、そこに乖離がありはしないでしょうか?
国としては個人や企業は独自に事を進めてくれればいいのか、それともぜひ一緒に考えていくべきなのか、そのあたりをお聞かせいただけますか?

服部氏:確かに国が計画しても、それで国民含めて全てを守るということはできないわけです。なぜかというと国や経済、社会システムは国・民間・個人、それぞれのシステムが絡み合っているからです。強靱化はマルチステークホルダーの関係です。


異なる立場が同じ目標を持つために何をすべきかが問われました。

特に家庭や個人では国と直接関わることができないことが多く、いざとなると自分が何をやっていいのかもわからない場合があります。だから、我々が目指しているのは自助共助公序ということです。まず自分を助ける、余裕があれば他人も助ける、最後は国や地方自治体に助けてもらう。だからお役所が全てやってくれるという発想ではないし、それでは防災も進まないのです。

野村氏:それを聞くと、なるほど国はそういうふうに考えているんだということがわかります。しかし、一般的に国土強靱化と聞くと自衛隊による救助や電力の供給といった国ができることが目立ってしまい、服部さんのいう自助共助の部分が見えにくくなり、市民も企業も自分たちは何をしていいのかわからなくなりそうです。そのへんで花田さんや庄野さんからは何かありますか?

花田氏:パブリックの限界の一つは財源です。僕らは農業をやっていますが、国からのファンドは税金であり、補助金ではありませんから10年、20年とトリートメントして返していかねばなりません。
このように国は財源を、実際にやるのは民間というようにパブリックとプライベートが連携してやりましょうというのがこれからの新しい社会の大きな枠組みだと思います。
例えば国内だけでなく、海外で農業をやるうえで誰と対話するかといえば世界銀行なんですね。いろんなファシリテイーを持っていてマルチラテラル(様々な地域)との関係交渉を彼らとやるわけです。


ソーシャルの視点で読み解くレジリエンスを語る花田氏。

そうなってくると、アイデアとそれを動かす人が必要になってきます。しかし、日本ではこうしたマネジメントができる人材が少ない。そこをなるべく早く整備していくことが課題だと思っています。

野村氏:花田さんの話を聞くと、今度はビジネスプロジェクトと国土強靱化の結びつきが見えにくくなってきますよね。本当に国土をレジリエントにしていくためには、農業や里山保全のような活動や企業によるビジネスなど様々な活動が繋がっていて、いずれもが同じ目的に向かっているんだというイメージをいかに伝えていくかが問われそうですね。

庄野氏:私は新しい社会に向かう時は物事を動きやすくするための新しい法規制や法制度が絶対必要なのではないかと考えています。我々がこうした新しいレジリエントなシステムを作ろうとする際に例としてオープンデータを挙げると、そこで個人情報という非常に大きな問題が起こり、それが足かせとなり、社会資本として本当に使いやすいものができなくなるなどです。医療情報も同様です。本当に新しい社会を創るのであれば、新たな規則や規制を整備して、本来の活動ができるようにすべきだと思っています。


社会資本の運用方法に目を向けた庄野氏。

野村氏:もちろん政府ができることがそこにはあるのですが、ソーシャルセクターとプライベートセクターがもっと同じ方向を目指していくことはできないのでしょうか?

花田氏:一つは国民(企業もそうですが)にいかに興味を持ってもらい、理解してもらい、自ら実践していけるようにすることでしょう。国のお仕着せでこれをやりなさいでは形骸化して実りがありません。自分で考えて自分で行動する。それを普及させていく活動が私たちの役割ではないかと考えています。

野村氏:人々を啓発し、レジリエンスな未来に向けて行動することを徹底するということは極めて難しいと思うんです。平時では上手く機能していたのに、いざ有事となるとフリーライド(ただ乗り)するという恐れがインセンティブメカニズムとしてあるかもしれません。そう考えると、被災後の未来に向けてより良くするということは今はむしろ一番得ではない行動かもしれない。それにもかかわらずそれを促進するということは、本当に啓発だけで十分なのでしょうか?我々の国家における社会契約の中で、本当に一人ひとりが未来のことを考えて生きていきましょうという意識改革が一番の妙手なのかどうかがわからないのです。

花田氏:私たちはソーシャルメディアという考え方を持っています。そしてソトコトは雑誌なので、メッセージをわかりやすく表現する必要があります。
何かというと、これまでのメディアが基本的に啓発型の金科玉条を持ち出してくるのに対して、私たちの雑誌では読者との関係性をどうデザインするのかが問われます。
その時に私たちが使うのは他人事を「自分たち事」にするという考え方です。自分たちに引き寄せることにはいろんな方法があります。例えば一人でやっても面白くないなら共有性をデザインする。大きすぎる問題でも、共に楽しむことで引き寄せることができます。例えば食の問題です。


それぞれの立場からの視点に思わず参加者も聞き入ります。

一消費者にすぎない自分にはそれがどこから来てどこへ行くのか、その川下と川上が見えません。ここを繋ぐための事業として、実際に里山に来てもらい開墾してもらって食べ物を作ってもらう。こういう問題も分断されていると自分たち事になりません。しかし、これを繋いでいくのがこうしたアクティビティであり、それをきちんと作ってあげることが重要なのです。
例えば仮想通貨ならイイネするとお金が貯まるシステム。読者が20代30代だと現金もない、資産もない。でも関係資産があれば信用価値があります。そこにプロフェッショナルがナレッジすればタンジブル(実体があり触れることができるもの)になります。そうやって機会を作り、デザインすれば何かが動く可能性があります。壮大な社会実験かもしれませんが、それを今やらないとダメなんだと思っています。

野村氏:まさに未来をどうする?という話を現在に引き戻して、しかもそれを「自分事」として捉え直す作業ですね。最後にファイナルクエスチョンです。ここに集まる参加者の皆さんは新しい現在を創り出すために、具体的な最初の一歩を踏み出したいと思っていらっしゃるはず。レジリエンスな未来を創るために、この場から「こんな考えが生まれてくれば、レジリエンスな未来にとってよいのでは?」というアドバイスをぜひ。

庄野氏:企業や個人の損得ではなく、社会的価値観を共有する場を持つことからしか物事は起こりません。ぜひ勤務時間内であろうと堂々と会社の外に出て、どんどんこうした議論に加わっていってほしいと思います。

花田氏:私はここにソーシャルビジネスラボを創りたいと実は思っているんです。私がやりたいのはメディア、ファイナンス、エネルギー、食料のソーシャル化という4つのワーキンググループです。これらを横串に通して、様々な技術を持つベンチャーや企業とツールを作りたいんです。例えば仮想通貨を僕らはソーシャルなルールで使いたいと考えています。罹災した後に現金を引き落とせなくても仮想通貨ならスマホがあれば決済できます。エネルギーなら地域で木質ペレットを作ったり、バイオガス発電を熱源にしたコジェネレーションを作ったり、それで食料を生産したり。そういうことをデザインし、技術を実現し、ツール化する。
それが私の描くレジリエンスの未来です。

服部氏:リスクコミュニケーションという分野を通じて、例えば子供たちに防災教育を行い、大人になっても家庭や企業の強靱化を考えるきっかけを作ってあげることが大事だと思っています。そうやって全世代にわたって全てのステークホルダーを啓発できるようにしたいと考えてます。何かを起こそうと思って行動しないと何も変わりません。そのきっかけをこのセッションを通じてぜひ実現していきたいと思っています。


国の強靱化は家庭や企業の強靱化でもあります。

ゲスト同士による対話では、被災後の未来リスクに対して、地域や組織の中でその時自分は何をしているんだろう?どんな状態が本当のレジリエンスなのだろう?ということをあらためて考えてみるきっかけがたくさん生まれました。

次の第3部では、いよいよ一人ひとりがプロジェクト化に向けたアイデアをプロトタイプとして練っていきます。