[issued:2006.07.15]
特集:デザインと耐震 序章
-Start of architecture reformation-
建築のストラクチャー(構造)は建築のデザインを実現する手段であり、その整合性が建築の完成度や美しさだという見方がある。
一方でストラクチャーの新しい試みがユニークな建築デザインに展開することもある。
この特集では、建築設計者と構造設計者の対話を通じ、デザインとストラクチャーの豊かで多様な関係性の中でイノベーションを続けていく建築の可能性を探って行きたい。

特集:デザインと耐震
プロローグ座談会
構造のわかる会
2.
問題提起としての対話:建築デザインのジレンマ
デザインの自由とストラクチャーの制限
ナビゲーター
プロジェクト・アーキテクト 林友斉
ナビゲーター
プロジェクト・エンジニア 水谷太朗
林:
耐震、地震対策というと、それが建築デザインの制約条件になっているのではないかという議論があります。
例えば、海外の現代建築デザインを見ると、日本の建築と比較して、柱が細く重量感を感じさせず、逆に浮遊感が感じられるものが多く見受けられます。それは、近代建築が追い求めてきた、柱が無く外がすべて見えること、丘の上に浮いていること、といった建築空間の理想のイメージを体現したものと言えるのではないかと思います。しかし、日本では地震対策を意識し過ぎると、骨格的に柱をしっかりとさせ、どっしりした感じになっています。
水谷:
地震に対応しなければいけないということが、そんなに建築デザインの自由度を奪うことにつながっていますか?
林:
かなり制約になっていると思います。
日本ではもともと木造の軸組みが基本であり、屋根がふわっと浮いている感じとか、襖を開けると空間が抜けていく感じなどは、西欧の組石造と対照的で、逆にそれは西欧では近代建築の空間モデルとも言われています。
地震の少ない西欧ではこれは鉄とガラスで実現されています。
水谷:
柱と梁からなる構造形式、いわゆるラーメン構造ですね。日本の伝統的な木造建築がデザインにおいては西洋の近代建築モデルになっているというのは面白いですね。
林:
そうなのです。
ところが、現在の日本では、耐震性を強化しようとして構造を堅牢にするために、同じ鉄やガラスの素材でも柱が太くなり、なかなか思い切った表現ができないというのが状況です。
浮遊へのあこがれ
水谷:
いま話しにでた開放感や浮遊感などが典型的に表現されている建築には何があげられるでしょう?
林:
教科書的ですが、近代建築ではル・コルビジェのサヴォア邸、ミース・ファン・デル・ローエのファンズワース邸は石やレンガに空間が閉じ込められていた過去への訣別を示すためにデザインされたと言っても過言ではないでしょう。
現代建築ではそれほどの使命感はありませんが、レム・コールハースのユトレヒト大学などのように床と天井一体の平面がリボンのように動き回って隙間に空間ができるものとか、フランク・O・ゲーリーのグッゲンハイム美術館・ビルバオのように彫塑的な内外空間をつくるとか、あるいは近年流行りの一連のガラス建築のような透明性の追求など、出来る限り構造の柱や壁などの鉛直要素は見せないデザインは、建築デザインのトレンドであり、現代的なアーバンスケープとも言えます。
水谷:
西欧の近代建築が空間の開放感や建築の浮遊感を求めるのは、組石造の石や煉瓦に閉じ込められていた西欧の人たちの無意識的な願望が反映されているとも考えられそうですね。
さらにあらゆる価値観がボーダレスに交錯し、つねに変化することを求める時代精神の空間的な表現とも感じられます。
林:
たぶんそうだと思います。さらにその想いや価値観が現代建築の浮遊感や透明感が横溢しているデザインに拍車をかけているのでしょう。
地球には本来重力があり、人間も子供の頃から鉛直に引っ張られる力を感じながら生きているので、浮いた空間をつくりたい欲望は実はもっとプリミティブな欲望のひとつであり、誰でも感じる「空を飛びたい」感覚と似ているのかもしれません。
水谷:
そのような現代建築デザインを日本でも展開しようとすると、地震の問題に直面してしまい、先ほどの国際的にも評価されている建築と同じような表現までは、なかなか辿り着けないというのも現実ですね。
林:
日本の木造建築には1000年以上の歴史がありますが、そのどれを見ても科学的な耐震という発想は感じられません。東大寺などは太い柱で構成されていますが、それは台風対策として作られた重い屋根を支えなければならなかったからであり、地震対策のためではなかったと言われています。
地震はどうしようもない天災、壊れてもしかたがない、そのときは建て直せばいいという、いわば宗教的ともいえる価値観も背景にあるのかもしれませんね。
では、こうした背景・認識のもとに、現在置かれている状況の中での課題や展望の方向性についてそれぞれの話を聞いていくことにしましょう。