RC壁の増し打ち補強
(従来の壁の厚さを増すため、補強壁であるということはわかりにくい)
鉄骨ブレースによる補強
(仕上げをして間仕切りとして利用、補強構造体は仕上げで隠してあるが、ブレース形状はデザインとして利用している)
小山:
耐震補強についての相談がある時、多くの場合、まず構造設計に相談があります。そうすると、手順としては耐震診断をして、建物のどこをどう補強するかということになります。この段階では、建物の耐震性能と使い勝手の関係が重要視され、デザインの話にはなかなかならないというのが現状です。建物の壁の中などに隠れてしまう補強であれば問題ないのですが、外壁部分での補強となると耐震要素が目に見えることになり、外装としてのデザインも重要になります。
林:
建築の外装への様々なアーキテクトの取り組みがいま注目を集めていますね。
外装のことを皮膜と言ったりしますが、その皮膜のデザインと、耐震性能など構造面での性能を同等のものとして考え設計し、そのユニークさを競うような状況が起こっています。これまでは、比較的、デザインはデザイン、構造は構造というように分けて設計することが多かったと思います。
高島:
1999年頃、銀座松屋さんの耐震補強について相談があり、当初は『中間階免震』と『外壁での耐震壁及び耐震ブレース補強』による2案で検討しました。
中間階免震は免震装置を設置するため柱が太くなり、補強後の売り場面積を従来よりも狭くすることになりますし、施工中は免震階(免震化を行う階)の営業が難しいという課題があります。
また、外壁による補強の場合も仮囲いなどで、店舗の面する人通りの多い繁華街への圧迫感などが想定され、集客に響くかもしれない。決めあぐねていた状況でしたが、補強の議論と並行して新しいテナント入居の話もあり、この際、外装全体の見直しをしてはどうかという議論に発展していきました。
林:
商業施設の外装はブランドアイデンティティの表現でもあります。
耐震補強の要素はそのブランド表現の一部として考えていく必要がある、という議論に至った訳ですね。
高島:
その検討の過程では、同じ補強要素でも「鉄骨ブレース補強」と「鉄板壁補強」のどちらを使うか、あるいはどう使い分けるかという議論がありました。
いずれも補強としての強度は同じですが、鉄骨量の多い鉄板壁の方が多少コストがかかります。しかし、地上階に必要なショウケースを考えた時、より大きく四角い窓を設けることが出来る鉄板壁のほうがよいということなりました。その上の部分は耐震ブレースを外部に見せるかたちでの補強としました。
また、この段階では上層階の外装リニューアルのデザインが決まっていなかったので、耐震ブレースを採用した層は、低層階と上層階のファサードの縁を切る役割ももたせています。
小山:
耐震要素を隠すことも出来たけど見せたというのは、当時のデザインとしては冒険だったとも思います。
しかし、我々に取っても、このプロジェクトが耐震要素を外装のデザイン要素として組み込む方向へと変わっていくターニングポイントとなったのではないかと思っています。耐震補強にデザインという要素が加わることにより、構造を担当するものとして、補強という仕事の面白さが増した感じがします。もっとデザイン面へかかわっていきたいと感じます。
高島:
外装で耐震補強を行おうと考えた場合、デザインはもちろん、建物の外装が持たなければならない他の機能、例えば採光、通風、省エネなど耐震以外の様々な機能性を考え、さらにデザインと融合したソリューションとして考えなければなりません。
林:
見せる耐震補強は同時に安全性を訴求するデザインにもなるのではないでしょうか。
企業や自治体のBCM(事業継続管理)への意欲的な取り組みなどとも関係して、安全性をテーマにとして建築を演出していくというトレンドも顕在化しています。
小山:
法的にも不動産売買の際に提出する重要事項説明書という書類にも耐震診断の有無とその結果をつけることにもなっています。
建物の耐震性能が社会的評価、経済的評価の根拠にもなってきています。補強の事実は方式を公表することで、社会的な信頼を獲得することにもなるのではないでしょうか。建物に求められる多様な機能向上要求の中でデザインと一体化した耐震ソリューションは大きなテーマになりつつあると思います。