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[issued:2005.09.20]

事業継続(BC)のためのファシリティ構築

BCデザインを実現する「震災対応設計指針」

事業の継続性を確保するためには、施設設計で何を行わなければならないか、「震災対応設計指針」を中心に解説します。

福島順一ポートレイト大成建設(株)
設計本部
プロジェクトリーダー
福島順一

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日本において事業継続(BC)の重要性が認識されるきっかけとなったのは、1995年の兵庫県南部地震の教訓に拠るところが大であるといえます。この地震では壊滅的な被害を免れながらも、情報伝達や医療はもとより、避難所としての機能すら失った施設が多く見られました。人命を守り・建物を壊さないといった耐震安全性を確保すると同時に、いかにして建物本来の機能を保持し、事業を継続させるかが、企業や組織にとって大きな課題となりました。

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10年前に誕生したBCデザイン「震災対応設計指針」

 事業継続性とその管理手法(BCM)は、リスク管理に敏感な欧米で発達し、特に2001年の米国同時多発テロ以降、取り組みが急速に進んでいます。2002年には事業継続管理に関する世界的な団体であるBCI(Business Continuity Institute)のガイドラインが英国規格協会(BSI)より公表されています。
 これに対して日本では、兵庫県南部地震以降、その重要性は認識されながらも、広く取り組みが進んでいるとはいえない状況にありました。こうした中、2005年8月に、内閣府中央防災会議で、「企業継続計画(BCP)ガイドライン」(第1版)公表されました。

 大成建設は兵庫県南部地震発生の数ヶ月前より、新聞発行機能を一瞬たりとも中断しないことを設計目標とする静岡新聞制作センターの設計作業をスタートしていました。当時は系統だった「BC」の手法は無く、手探りで様々な検討を行っていました。その検討過程で蓄積したノウハウに震災で得られた様々な技術的教訓を加味することによって、兵庫県南部地震のわずか1年後の1996年、従来の耐震設計基準の枠をこえ、事業継続を目標とする「震災対応設計指針」を発表しました。
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従来の耐震設計との違い

 事業継続を目標とする場合、その阻害要因(ビジネスインパクト)となるのは地震による建物への物理的な被害のみではありません。それに伴うインフラやサプライチェーンの停止など広範囲に及びます。
 本指針が「地震対応」ではなく「震災対応」であるのも、事業継続の要が「地震」と地震が引き起こすあらゆる有形、無形の被害「震災」に対し、いかに備えることができるか? という点にあるからです。

 従来の一般的な耐震設計においては「壊れないこと=安全」に軸足が置かれていました。「耐震」という言葉が示す通り、あくまで「地震そのものの被害から建物を守る」ことを目標としています。
 これに対して、「震災対応設計」では、機能継続レベルに応じて目標とする性能を三段階に分けています(震災対応グレード)。まず、建築基準法に準じた上で兵庫県南部地震における教訓をプラスした性能をCグレード(人命保護、倒壊防止、避難確保)とし、これを実現する仕様をミニマム基準として設計施工物件のすべてに適用しています。そして、最上位をAグレード、中間をBグレードと呼んでいます。

 施設の用途や業務により、それぞれ要求される機能とその度合いは異なります。病院ならばどの程度の医療活動を続けるか、電算センターならばどの程度コンピュータを作動させるかなどを個々に明確にし、施設や機能の重要度ごとに適切な耐震性能を設定することで費用対効果の高い地震対策を行うことが可能になります。

 プライオリティの低い施設であればCグレードを採用し、最上位のAグレードを要求する建物なら、構造体の損傷防止は勿論のこと、電気・ガス・水道や交通網などのインフラが途絶した状態を想定して、備蓄倉庫や非常電源オイルの確保、重要設備配管や配線のバイパス計画といった、建築設計や設備設計などとも連携した設計を行うことになります。

 「震災対応設計」 は、従来の耐震設計が目標とした「安全」に「機能維持=安心」という指標を加えることで、多様化、高度化するクライアントからの事業継続に向けた様々な要求に応えることを可能にしています。


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BCMを実現する「震災対応設計指針」




震災対応性能レベルの策定フロー
ビジネスインパクトをふまえるためにも
関係者へのヒアリングと合意形成は欠かせません。

 事業継続管理(BCM)とは、地震などの災害や事故が発生した際、あらゆる観点から対策を講じ、「事業を継続させる」もしくは「目標復旧時間内に事業を再開させる」ためのマネジメント手法です。

 事業継続に必要な機能や施設は各企業の業態や業務内容により異なります。そのため、BCMにおいては、初めにビジネスインパクト分析を行い、ビジネスプロセスの脆弱性や相互依存関係などを分析。施設のボトルネックの特定とあわせて目標復旧時間を設定します。
「何を、どの程度守らなくてはならないのか」を明確にすることにより、目標の達成とコストバランスの両立した事業継続が可能となります。

 しかし、目標を達成するために必要な耐震性能を決定し、設計者に対して指示することは専門家でもない限り難しいと思われます。震災対応設計では「どの程度の性能が必要か」ではなく、「震災に際して、この建物がどう機能すればよいか」という観点から作成した「震災対応チェックシート」を用いて要求される性能を決定していきます。

 高次に集約された分野ほどファシリテイと業務は裏腹の関係にあります。抽象的な「業務」という概念を物理的な「施設や設備」に置き換えることで、ボトルネックの抽出を具体的に行えるようになっています。
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震災対応チェックシートとBC設計

 震災対応チェックシートでは、業種ごとにメインとなる機能を設定(主機能)し、それぞれについて「機能」と「部位」を普段の会話や業務で使用する具体的な名称で表現しています。そして機能・部位を維持するために必要な設備を「関連機能」として、それぞれ要求される機能維持レベルを決定します。
 これにより、専門的な用語を用いることなく、お互いに理解と目的を共有しつつまた事業活動を視点の中心とすることで、クライアントのBCMに的確に応える性能を提供できるようになります。

 チェックシートによるヒアリングを終わると、直ちに設計部門で各システム構成と耐震レベルの設定を行います。
 例えば、情報システムをインフラ停止後も機能維持させるということは建物が大破、倒壊しない、コンピュータが破損しないということだけが必要なのではありません。コンピュータが機能するのに必要な電気回線、通信回線、場合によっては空調設備などが全て機能する必要があることを意味します。
 電源系を例にとると、この場合は電力が停止しても機能を維持することが要求されるため、無停電電源が必要となりますが、そのシステムを構成する要素は大きくわけても5項目あり、サブシステムを含めると17にもおよび、このうちどれ1つが停止しても、システム全体が停止することになります。

 震災対応設計は、「守りたい施設や機能」を提示していただくだけで、それに関わる機能とそのシステム全体に対して詳細な検討と対策を行い、施設、設備面における事業継続性を確保していきます。手段である「耐震性能」ではなく、目的である「継続すべき業務」を基本にしたBC設計なのです。

チェックシートではまず業種ごとに大きく4つの主機能を設定し、それぞれ目標とする機能維持レベルを、1は極大地震後も機能を維持する場合、2は大地震後も機能を維持する場合、3ではインフラ停止後も機能を維持する場合としています。


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BCの一翼を担うファシリティ対策

 地震による被害は企業活動の血脈であるファシリティ、サプライチェーン、スタッフの全般に影響を及ぼします。ビジネスインパクト分析において地震対策が大きな位置を占めるのもこのためです。
 特にファシリティに対して地震(震災)への対応を竣工後に行うには、非常に大きな労力とコストが必要になります。また、スペースや環境の問題で、竣工後の対策が困難な場合も考えられます。

 事業の継続性を確保し、BCMを構築しておくことは、単に非常時に対する備えというだけではありません。非常時において事業活動を継続できる企業には「信用、信頼」という、貴重な財産をもたらします。すでに欧米ではBCMに対して取り組んでいるか否かが企業を評価する指標として定着しています。
 事業継続の要の1つであるファシリティに対して地震対策を行い、BCに取り組んでいくことは、「いざという時の保険」ではなく、企業力と価値を高めるために必要な活動であり投資であるといえるのではないでしょうか。
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