[issued:2005.09.01]
耐震補強のROI(費用対効果)
ROI【Return On Investment】
地震対策にかかる費用とその効果とは何か?
地震対策の基本ともいえる耐震補強。その費用対効果(ROI)の検証を評価手法と参考データにより行います。

大成建設(株)
営業推進本部耐震推進部
次長
菱沼慎夫
ROI【Return On Investment】とは事業に対して投下した資本から生まれる利益の比率ことで、ここでは、地震対策に対するファシリティ投資とその経営への効果について検討したいと思います。
ROI(投下資本利益率)=(経常利益+支払利息)÷(借入金+社債発行額+株主資本)
耐震性向上プロジェクトとワークフロー
●一般的な補強診断のワークフロー
最近多発する比較的大きな地震や、「東海地震」「南海・東南海地震」などの発生を危惧する報道により、地震に対する関心が高まっています。また、人命保護だけでなく、事業継続(BC)の観点からも、ベースとなる建物の耐震性向上への取り組みも促進されるようになってきました。
その一方で、施設の耐震化において、その投資の全体構造が各段階を経ないと提示されにくいことと、耐震性向上自体への投資効果がすぐには(地震が発生しないと)経営に反映しないこともあり、経営判断が難しいというのが現状ではないでしょうか。
一般的に、耐震補強を計画する場合、補強工事のみを単独で行うことは少なく、その他のリニューアルと同時に実施するケースがほとんどです。これは耐震補強工事の周辺工事(仕上げの撤去、復旧、建物利用者への配慮)との関連やサッシやガラス、設備機器、配管といった構造体以外の部材も更新することで、全体的な耐震性能のアップに加え、建物全体の付加価値の向上が図れるといったメリットが大きいためといえます。
補強目標と補強手法
●施設重要度による耐震補強目標値
一般に「耐震補強」と呼ばれるものには、技術的に「耐震」「制震」「免震」の3つに分けることができます。
耐震は建物の構造体が持つ「粘り」と「強さ」両面から地震に耐える性能を指し、通常Is値(Seismic Index of Structure)という数値で表現されます。過去のデータからIs≧0.6であれば「人命を脅かすような崩壊や倒壊にはいたらない」という現行の耐震基準の目標に近くなるとされ、この0.6を満たすことが補強補強における最低基準となっています。
これはいわば「丈夫さ」の指標で、建物の用途や重要度によっては、さらに高い性能が要求されますが、それは同時に補強量が増大することでもあり、イニシャルコストも比例して増大します。
「耐震」がこうした「建物の丈夫さ」で性能を考えるのに対して、「免震」と「制震」は予測された地震に対し、どれくらいその影響を避けることが可能かといった「目標性能」を指標としています。
業務継続(BC)の観点から耐震補強プロジェクトを進める場合、構造体の丈夫さだけではなく、電気や衛生などの「設備」、つまり建物を使用する上で必要な「機能」や、ドア、天井などの建築2次部材への対策も考慮することが必要となります。
耐震補強のイニシャルコスト
単価の参考値
*2005年までのデータをもとにしています。現在の単価に関してはお問い合わせください。
●一般的な事務所での規模別補強関連費用の平均値(2004年までの実績の集計データです)
耐震プロジェクトを進める際に投資の全体像を把握しておくことは、事業全体の評価を行う上で基本であり、最も重要な点といえます。耐震補強に関しては、正確な工事費を算出するためには正確な「耐震診断」を行い、その診断結果に基づく必要があります。しかし、プロジェクトに対する投資判断をするためだけにこうした先行投資を行うのはなかなか難しいというのが現状と思われます。
今回算出したデータは、これまで弊社で施工させていただいたプロジェクトのデータから、一般的な事務所ビルを対象とした補強関連のみの費用を検証してみたものです。
実際には、それぞれの補強工事の規模や条件など、状況が異なる点も多いため、個別に耐震診断を行って見積もりを算出するケースと比較して精度は低いのですが、初期の投資判断の参考値としてご利用いただけるかと思われます。
なお、耐震化事業費全体を考える場合は、必要に応じて工事期間中の一時移転などの付帯費も状況に応じて考慮しておくことも必要です。
投資の最適値と効果の評価
耐震投資の効果は実際に地震が起きるまではなかなか実感しにくいというのが現状ではないでしょうか。また、ROIにおいてもリターンが「利益」としてではなく「損失の軽減値」としての計上となるため投資回収としてもわかりにくいといえます。
しかし、リスクマネジメントの手法や最近注目されているBCMの観点から、評価の方向や投資の最適化を図る試みがなされてきています。
企業にとっての耐震投資は単に建物の安全性の観点のみで評価するのではなく、事業活動全般に対する影響を踏まえて判断することが重要となってきています。
*2 PML【予想最大損失率(Probable Maximum Loss)】
「予想される損失(補修費)/再調達費×100%」で表される、地震保険などで用いられる
巨大災害リスク指標。PMLの値が小さいほど建物の地震による被害リスクは小さくなる。