TOP >> Solution >> Taisei's Eye >> 長周期地震動と超高層ビル
[issued:2008.07.17]

長周期地震動と超高層ビル

∼その課題と対策に向けて∼

都市の超高層建物にとって新たな課題となってきた長周期地震動。 その発生のメカニズムは?建物にあたえる影響は?そして、私たちはどの様な対策を取ればいいのでしょうか?

細澤治ポートレイト大成建設(株)
設計本部 副本部長
構造設計プリンシパル
細澤治

anchor flag
anchor flag

長周期地震動とは何か


長周期成分を持つ地震動のモデル図
ひとつの地震のなかには様々な周期(揺れの長さ)の揺れが含まれ、それぞれの揺れが持つエネルギーの大きさも異なります。


 
 地震によって建物が揺れ、損傷や倒壊といった被害が起きるのは「地震そのものの揺れ」と「建物の揺れ」が共振するためです。
地震が起きると様々な周期を持つ揺れが発生します。1秒以下の短い周期を持つ揺れはエネルギーが大きいものの、その揺れは持続する事無く、比較的早く減衰していきます。長い周期の揺れ(長周期地震動)は減衰せずに遠方まで伝わる特性を持っています。

 関東平野をはじめとした大都市がある平野はすり鉢状になっており、揺れに対しておよそ6〜8秒の周期(卓越周期)を持っています。長周期地震動による揺れは、その周期の揺れが地盤と共振し伝わり、それと共振する建物、つまり長い固有周期の建物が選択的に揺れることによって生じます。

 しかし、長周期の揺れは遠方まで伝わるものの、そのエネルギー自体は小さく、建物を揺らすほどの力はないと考えられていました。建築においても長周期地震動の問題は検討されていましたが、その際に想定していた周期は3秒程度。6秒もの長周期成分が建物を揺らすとは考えらていませんでした。


 建物を揺らすほどのエネルギーを持った長周期地震動が遠方まで伝わる可能性が高い事は「地球シミュレータ」を用いた解析によっても検証されていました。2000年の告示では長周期地震動を考慮する事が求められています。
 そして、2003年9月の十勝沖地震では震源から200kmも離れた場所にある大型石油タンクがスロッシングによる地震被害を受け、長周期地震動による被害が実際に確認されました。その後現在に至るまで研究が進められています。

 今後高い確率で発生すると考えられている東海、東南海地震等の大地震では、そのうちの長周期地震動が遠方にある大都市の超高層建物に影響を与える可能性があります。
 このため、通常の地震に加え、遠方で発生する大地震に対しても長周期地震動による影響の確認と対策が超高層建物の新たな課題として浮かび上がってきたのです。
地震を学ぶ

地震の活動期に入ったといわれる日本
このコーナーでは、地震発生のしくみ等の基礎知識から、現在想定されている切迫性のある地震はどこなのか等、日本の地震環境についてわかりやすく解説しています。

anchor flag

超高層建物への影響とその対策

 
 日本の超高層の建物はしなやかで粘り強い構造となっており、建物を変形させることで地震のエネルギーを吸収するしくみになっています。そのため、長周期地震動に見舞われても建物自体の倒壊、崩壊の恐れはありませんが、固有周期が長いため長周期地震動と共振することになります。このため、通常の地震時と比較して、


周期による揺れの違い
長い固有周期を持つものは、長周期の震動に共振して大きく長時間揺れることになります


大きく変形する
50階建ての建物の場合、大地震時に最上階での加速度は最大300gal程度、左右2m程度の揺れ幅になる事が予想されます。

揺れが長く続く
地震動が終息しても建物自体は共振によって長時間揺れ続けます。

という特徴があります。
 また、建物の構造体そのものに影響はなくても、長時間続く大きな揺れは内部の人や、仕上げ材設備等の非構造部材などに様々な影響が出る可能性があります。揺れ方が強い場合は家具や什器の転倒や移動も起こりうるでしょう。
 また、建物自体にも大きな変形が長く続くことによって部材が疲労し、その結果、耐震性能の低下を招く恐れも出てきます。余震や連続して地震が襲来する可能性も考えていくと、これらの点をふまえた対策を考えていく事が必要になってきます。
 


 長周期地震動は、その「大きくゆったりとした長時間の揺れ」によって建物やその内部に様々な影響を及ぼします。そのため、揺れのエネルギーを吸収し、できるだけ変形を小さく(*層間変位角で1/100以下)し、揺れを早く収めることが全ての対策の基本となります。

 それには建物に制震装置を組み込み、より高いエネルギー吸収能力をもたせる「制震レトロフィット」の手法が効果的です。

 建物の変形量が小さくなれば、それによって生じていた内装のひび割れや配管等への影響も小さくなります。また、エネルギーを吸収する事で、結果的に加速度を抑える効果も期待できるものもあり、例えば加速度が最大200ガル以下になれば、転倒の可能性は大幅に下がります。

(*層間変形角:地震時の一階の高さあたりに対する水平方向の変形の割合のこと。水平変位/階高。)
制震レトロフィット(制震補強)

一般的には制震レトロフィットは、耐震性が不足している建物の耐震補強に制震装置を適用する事を指しますが、この場合は、制震装置の増設によりエネルギー吸収能力を増加させることで保有している耐震性をさらに向上させる「バリューアップ」としての制震レトロフィットとなります。

anchor flag

バランスの取れた包括的な対策が重要

 
 制震による対策は揺れそのものを抑える、いわば根本的な対策であり、超高層建物への影響全体にわたって効果があるものといえます。その上で、建物の揺れの状況と目標とする安全性や機能維持レベル等を照らし合わせて、それぞれ個別に必要かつ適切な対策を取っていく事が、効果的かつ経済的な対策へとつながっていきます。

家具、本棚の転倒対策
固定など転倒防止(固定先を含めて検討)
倒れにくい背の低いものに変える

コピー機、プリンタ等重量什器の移動対策
輪留めを徹底するなど、すべりや転がりを防止

天井の落下対策
落下により人命等に影響の出る場合
長い吊りボルトには振れ止めとなるブレースを設ける
周囲の壁や段差等により剛性が異なる部分にクリアランスを確保
エレベータの対策
超高層ビルでは地震後の縦動線の確保は特に重要となります。
一般的な建物と同様、安全のため、まずは最寄りの階に停止させ、閉じ込めを防ぐ事が基本となります。
長周期地震動は到達までに時間がかかるので、
従来の管制運転に加え「緊急地震速報システム」とも連動させ自動的に停止させる
のが即効性の高い方法となります。
しかし一時停止させるだけではロープの共振自体を防ぐ事は出来ないため、引っかかりなどの発生を回避する事にはなりません。早期のエレベータの稼働再開をはかるには、根本的な対策として
ロープへの振れ留めを施す
ことが最も有効となります。
 これらの個別の対策は個別に行う事も出来ますが、制震による全体対策とのバランスを考えて行う必要があります。そのためには、まずは建物全体がどのように揺れるのかを検証することが重要です。
 制震は段階的な対策を図る事も可能です。予算等にも限りがある場合は、揺れの状況や目標にあわせて「徐々に制震材を組み込んで段階的な性能向上を図る」といった対応も可能です。

 特に大成建設が独自に開発したT-RESPO構法は軸力制御オイルダンパーを用いることにより、通常の制震装置では必要となる柱や梁の補強が基本的に不要です。さらに設置スペースが小さく配置しやすいため、より柔軟に対策をプランニングし、全体対策と個別対策のバランスを取ることが可能になります。

 これらの対策は長周期地震動のみならず、通常の地震に対しても有効かつ必要ですが、これで万全というわけではありません。
 地震に対する安全性を確保するためには、上記に挙げたハード面における対策のみならず、

緊急地震速報を利用して、回避行動や避難をスムースに行う
避難、誘導のためのサインの整備
避難、誘導マニュアル整備

といったソフト面の計画、整備を同時に行い、包括的な対策を進めていくことが極めて重要であるといえます。
非構造部材や設備の地震対策を考える

事業継続のカギを握る設備や非構造部材の地震対策。その効果を最大限に発揮するにはどのように取り組むべきかを検討していきます。

ファシリティとの密接な連携で活かす「緊急地震速報」

地震襲来の数秒前の告知。この貴重な時間を人命確保や早期復旧へとつなげるポイントは何か。
現状の課題も含めて考えていきます。


anchor flag

超高層建物の課題 ー安全、そして安心へー

 
 効果的でバランスの取れた対策を取るためには、現状でどれくらい変形し、揺れるのかを把握することが不可欠です。同じ高さの建物であっても、同じ揺れ方をするわけではありません。揺れ幅も異なれば、その加速度も建物によって違います。

 長周期地震動によって建物がどれくらい、どの程度揺れるのかは「応答解析」によって知ることができます。日本では超高層建物の設計に応答解析が義務づけられているため、データが残っていれば、それを使って短期間で解析することができます。
 応答解析により揺れ方が分かれば、どこに、どんなリスクが潜んでいるのかを把握することができるようになります。そして、どこまでの機能維持が可能であり、維持すべきなのかを判断し、目標を立てて制震による全体の対策と設備等の個別対策をそれぞれコストとのバランスを図りながら計画、実行していくことになります。

 これらの事は、何も長周期地震動、超高層ビルに限った特別なプロセスや手法というわけではありません。通常の地震動であっても「建物が揺れる」ことに変わりはなく、安全、安心を確保するために対策が必要であることにも変わりはありません。

 「まず現状を把握し、どれくらいの揺れが発生し、それによりどんな影響が出るのか、その際致命的なものは何かをリスクシナリオで把握する」ことは地震対策を考える上での基本といえます。
 そして、全体対策でどこまで対応可能か、何が個別対策として必要なのかを把握し、実際に対策を決定していくことが重要です。

 先に述べたように、建物はそれぞれ違った揺れ方をします。揺れの大きさが異なれば、それに応じてリスクシナリオも違ったものとなります。異なる揺れ、異なるリスクシナリオに応じて全体の対策、個別の対策それぞれをロジカルに対応させる。これこそがバランスの取れた地震対策といえます。

 超高層建物は多くの人々が生活し、活動する場となっています。
 地震時の安全性を確保するのは当然として、例えば、エレベータが早期に復旧できなくなれば上層階は「孤島」に近い状況になるなど、被災後における建物の機能維持が高いレベルで求められます。
 特にオフィスビルの機能維持は事業継続性の確保にも直結する問題であり、エレベータはもちろん、電気、ガス、水道といったインフラが維持あるいは早期に復旧できることは企業経営において大きなアドバンテージとなります。

 長周期地震動は地震対策の新たな課題ではあっても、特別な課題ではありません。

まず現状を把握し、適切なリスクシナリオによって、地震というリスクに包括的に、プライオリティを付けた対策を計画立てて行っていく。
これはどのような地震であっても変わる事の無い基本事項といえます。


アリの目とトリの目、そして第3の目で取り組む事業継続

取引先から等の外部要求の拡大により、ますます必要になってきた事業継続管理(BCM)。しかしその担当者には、現実に行われている「部門や事業所単位での取り組み」だけでは応えきれないのではないか?というジレンマもあるようです。


長周期地震動対策やリスクシナリオ構築についてのご相談はこちらからどうぞ。

お問い合わせ:セキュリティにプライベート認証を使用しているため、アラートが出る場合がありますがそのままお進みください。

  • お問い合わせ:セキュリティにプライベート認証を使用しているため、アラートが出る場合がありますがそのままお進みください。
  • メールマガジン:「コミュ二ケーション」にジャンプします。詳細をご覧の上お申込ください。

印刷