[issued:2005.11.19]
新潟県中越地震での事業継続への影響
ビジネスインパクトの要因分析レポート
新潟中越地震における企業の被害状況から、事業再開に影響を与えた要因(ビジネスインパクト要因)についての分析結果です。
今後の事業継続管理(BCM)のあり方と事業継続計画(BCP)策定の方向性を探ります。

大成建設(株)
営業推進本部耐震推進部
部長
杉崎良一
最大震度7を記録し、ピーク時には10万人の避難者を生んだ、新潟県中越地震。
地震による直接の被害もさることながら、本震並みの大きな余震が続き、復旧作業を困難なものとしたことは数々の報道、資料から明らかになっています。
しかし、その中でも被災直後から事業活動を継続、あるいは早期復旧を可能にした企業がありました。今回は、被災企業108社の調査結果をもとに、何が事業継続の明暗を分けたのか考えていきます。
震災による事業中断要因の分析
事業継続管理(BCM)にとって地震対策のプライオリティが高いのは、日本が地震大国であるからからという理由のみではありません。その被害が事業活動を構成する要素である「ファシリティ」「スタッフ」、およびキャッシュフローを含む「サプライチェーン」全般に大きな影響を及ぼすからです。
下のグラフは新聞、雑誌等に掲載された被災企業108社について、事業中断の要因を8つに分けて調査・分析した結果です(重複回答あり)。
これによるとファシリティへの直接的な影響である
「F2 耐震性」が30件と最も多く、そして、
「F6 サプライチェーン」の21件が続いています。
なお、この「サプライチェーン」というのは物流のみを対象としていますので、社外要因ということで「F5 社会インフラ」の9件を加えると30件となり、ファシリティへの影響と並びます。
最後にスタッフについてみると
「F3 従業員」9件、「F7 対策本部」1件となっています。また、今回の地震の特徴として「F1 余震」も復旧を妨げた大きな要因となっています。
以下のコラムでは、この集計をもとに、実際の現地企業への取材結果も踏まえた内容について考察してみます。
事業中断要因の分析
(マスコミ情報を中心に事業継続がはかれなかった要因について洗い出してみました)
事業中断要因区分の定義
●
●F1 余震の問題
余震の恐怖感、安全点検に与えた影響
●F2 建築・設備の耐震性による問題
構造材(例、建物)、二次部材(例、部屋等内装)、設備(例、生産設備、ユーティリティ、コンピュータ)、除染問題(クリーンルームがある企業)
●F3 スタッフの問題
メンタルな問題(例、製品の不具合が発生、出社拒否)、物理的に出社不能(例、避難所への長期避難)
●F4 復旧工事業者手配の問題
協力会社は機能したか
●F5 通信、電力等、社会インフラの問題
インフラの機能が復旧にどのように影響したか
●F6 サプライチェーンの問題
上流、下流の問題、物流網の問題
●F7 震災時の組織体制の問題
安否確認、備品等は役に立ったか、災害対策組織は機能したか(機能しなかった点、ネックとなった点)、代替事業所の設置、マスコミ対応、取引先とのコミュニケーションはうまくいったか、本社、他事業所との連絡はうまくいったか、復旧の優先順位はどのように決めたか、復旧計画上の課題は何か
●F8 応急資金調達の問題
大企業と中小企業の差
ファシリティ ∼余震対策が新たな課題に∼
地震被害と聞いて真っ先に思い浮かぶのは全壊、倒壊といった建物への深刻な影響ですが、この地震では多くの企業が建物の耐震化を進めていたこともあって、建物そのものへの致命的なダメージを被った例は少数に留まりました。
にもかかわらず、建築設備の耐震性が問題となり事業継続を妨げたのは30件と最多要因に挙げられているのは、実は建物本体(構造体)に関する被害が中心ではなく、天井やドア、窓ガラスと言いった内装(建築2次部材)や建物機能を維持するための設備機器や生産設備、そして事務所内の什器へのダメージが原因となっているためです。
具体的な被害を例示すると
• 配管等がずれたため、漏水により施設内が水浸しになった。
• 屋上の貯水タンクが破裂し、階下に損害
• ガス漏れ等があり、その対策に追われた
• 工具等が散乱したうえ、転倒した機器等の下敷きになり使用不可
• 什器、設備がアンカーごと倒壊
• 机上のPCや書類が散乱
等が挙げられます。
その反面、免震構造を持つ建物では設備転倒や落下などの被害はなく、早期の事業再開を可能にしたという報告もありました。
先の「F1 余震」の影響も実際には建物の耐震性の問題と考えることができ、
事業継続において重要なのは「建物、施設そのものを守る」ことではなく、「その機能を守る」という視点であることがわかります。
大成建設が独自の設計指針で定義している耐震グレードの考え方と今回の地震の位置づけ
重要な機能を持ち、迅速な業務再開が必要な施設においては、免震を考慮していく必要があることがわかります。
※気象庁の発表(12月28日現在)によると新潟県中越地震における有感地震の累計は877回にもおよび、そのうち18回が震度5弱以上となっています(兵庫県南部地震では最大で震度4、回数にして8回)。
頻繁かつ大規模な余震により、建物、設備への安全点検が進まず、復旧を遅らせることとなりました。また、事業を再開した企業においても精密部品を製造しているため、余震が続いている間は生産ができないといった問題も露見しています。余震への対策は、今後事業継続を考える上で考慮に値する大きな課題のひとつであるといえるでしょう。
事業の継続性を確保するためには、施設設計で何を行わなければならないか、「震災対応設計指針」を中心に解説します。
企業にとって施設は事業を営む上でのための道具であり、スタッフやサプライチェーンの集結する場として、経営を支える需要なリソースの一つであると言えます。大成建設のBCMソリューションを提供する設計本部副本部長の町井さんに、その取り組みについてのお話を伺いました。
サプライチェーン ∼問われるマネジメント∼
サプライチェーンについての詳細は、川上・川下の問題が5件、物流網の問題は16件となっています。
注目すべきは川上・川下の問題で、「ジャストインタイム方式」を採用した企業では直接震災被害がなかったにもかかわらず、生産停止を余儀なくされたケースがあったことです。
これは部品を最小限しか保有しておらず、また代替調達先もほとんど確保していなかったため、部品メーカの被災し、生産が不可能、あるいは生産効率を重視し、あえて生産を停止する判断を行ったためです。
結果として残業対応や休日振り替え等を実施し、年間の生産計画にダメージを与える規模には至っていませんが、今後のBCMへの取り組みに対して、大きな課題を投げかけたといえます。
物流においては交通網の寸断により、営業停止となるケースが深刻な問題となりました。対応としては「迂回ルートの設定」、「振り替え輸送」と従来から行われている対応策が大半を占める中、「原付バイクを利用」という回答があり、少量、小規模なものであれば十分に検討する価値がある手段といえます。
このように、サプライチェーンにおける影響と対策は個々の企業、業種により千差万別です。事実、川上・川下の問題でも上記のお湯な影響があったとしても「在庫を抱えるより、緊急時にその都度対応したほうがコスト的に有利」とする企業も多くあります。いずれにせよ、今後は「リスク」を前提に、費用対効果を考慮したマネジメント対策が重要になってくると思われます。
これに対し、通信、電力などの社会インフラの問題については自家発電等のバックアップや通信における専用線、衛星通信電話などの代替手段の導入が進んでおり、社会インフラ復旧までの2∼3日であれば耐えられる準備が進んでいることも明確になってきました。
スタッフ ∼マンパワーの確保が早期復旧へのカギ∼
早期復旧を果たした企業の多くが
応援要員を確保することに力を注いでいました。
地震直後には損傷状況の確認、後片付けなど、多くのマンパワーが必要になる一方、社員の出社不能や提携先のサービス停止も発生してしまいます。しかしながら、この点についてマニュアルに記載していた企業は少なく、今後のBCP策定においては考慮すべきポイントといえます。
安否確認は迅速に行えたか?
安否確認は概ね2∼3日で完了しています。確認の方法としては携帯電話、一般電話の利用をはじめ、親族を通じた確認を行ったり、実際に避難所を回ったと回答した企業もありました。
• 当日深夜に完了。携帯電話、一般電話をひたすら利用した。
• 1日で完了。緊急電話(規制なし)活用。親族連絡、避難所を回った。
• 2∼3日要した。
• 2日までで、殆どの社員の安否が確認できた。
• 地震直後は2/3の従業員と連絡が取れなかった。
• 携帯電話のメールが一番利用できた。
出勤体制はスムースに整ったか?
「F3 従業員」の問題は数こそ9件と少ないものの、従業員の被災が事業再開の支障となっているケースがやはり見られます。「避難生活が長引く」、「社員が身の回りの対応に追われる」といった状況から出勤できないためです。なお、学校が休みになることが多いため、子供同伴で出社する社員が増える点もマンパワー確保の点から留意すべき点といえます。
• 出勤率は初日30∼40%、2日目70∼80%、3日目95%以上
• 休み明けとなっても社員が出勤できず操業もできない。
• 27日は社員が数人出社した程度。
• 社員の多くは身の回りに追われ出社できない。
対策本部、地震対策マニュアルは機能したか?
非常時にマンパワーを確保し、十分に機能させるには平時に想定した対策本部機能やマニュアルが有効に働いたかどうかも重要なポイントになります。
今回の地震では早いところでは10月23日の当日中、遅くとも25日までには幹部が現地入りし、陣頭指揮を執っており、概ね機動性を確保していたといえます。
機能しなかったケースでは、その理由として「本部スタッフ、現地スタッフを兼務させていた」、「震災直後、避難指示がうまく機能しなかった」と回答しています。
また、地震対策マニュアルについては、策定していた企業も多数ありましたが、安否確認を中心に「機能しなかった」という回答が多く見受けられました。
具体的には
・安否確認に携帯電話を想定しており、実用に耐えなかった
・スタッフがマニュアル通りに動かなかった
・応援部隊の確保を行ったが、マニュアルには記載されていなかった
などというもので、いかに事前の想定とそれに伴うマニュアル作りが難しいかがわかります。
これらのことからも、事業継続への取り組み(BCM)は「事業継続プラン(BCP)の策定で完結するのではなく、シミュレーションや訓練などを行って効果を検証し、
実際に機能するものとして継続的に改善していかなければならない」ということの重要性をしめしているのではないでしょうか?
気象庁が配信する緊急地震速報を利用して、地震による大きな揺れが到達する前に、様々な方法で警報を配信します。
今回のインタビューは、11月1日に行われた、「大成建設エグゼクティブフォーラム2005」の講師のお一人としてお招きした、株式会社静岡新聞社/静岡放送株式会社 総務局長の小長谷建夫さんに、東海地震という想像を絶する事業リスク(ビジネスインパクト)に対し、どのようにBCMを実践され、効果をあげているかをお伺いしました。
この地震から何を学ぶか? ∼事業継続確保に向けて∼
RTO:業務再開のための具体的な目標(目標復旧時間)
経済、社会のグローバルなネットワーク化が進む現代においては、「地震の直接的な影響は無かったのに、発注しても納期に間に合わないという
風評被害で受注が激減した」という事例が象徴的に示しているように、事業の停止は直接的な経済的ダメージだけではなく、社会的信用までもが危機にさらされます。事業継続性の確保は、非常時の緊急対応ではなく、平時から取り組んでおくべき企業活動の方向性であり、経営戦略の重要な一部であると言えるのではないでしょうか。
また、迅速な復旧のためにはファシリティ、インフラの各機能の復旧のみならず、回復業務のプライオリティを考慮しながら、必要な施設機材や設備機器、キャッシュフローの調達等も必要になります。これらを迅速に行うためには、復旧の最前線に意思決定権を持つ経営層があたることがひつようになりますが、経営層が被害に遭い、指揮が執れないことも想定しておく必要もあります。
BCM(事業継続管理)への取り組みとはファシリティ、サプライチェーン、スタッフの各構成要素全般に対し、それぞれの相互影響を考慮しながら事前から十分な対応を行い、日常的な業務としてあらかじめ取り込んでおくということであり、BCP(事業継続計画)の策定とは、それを迅速に、効果的に実施・運営するための経営計画を策定するということになってきます。
このため、BCPの策定には、復旧業務のプライオリティを検討する上でも、その前提条件として
「業務分析」が必要不可欠となります。
この意味で、BCPは従来の防災計画とは一線を画しているといえます。
業務を行っている「場」である「ファシリティ」の地震対策については、これまでの構造的な耐震性だけではなく、如何に建物の機能へのダメージを最小限におさえるか。如何に復旧を迅速に行い、業務再開時間(RTO)を短縮するか。
こうしたことが、BCMの観点から見た場合の施設戦略における大きなポイントではないでしょうか。
事業の継続性を確保するためには、施設設計で何を行わなければならないか、「震災対応設計指針」を中心に解説します。
「日本版BCPガイドライン」に準拠した「事業継続計画書」を短期間に策定するための支援サービスです。