生産施設の耐震化プロジェクト
トータルエンジニアリングを考えた工場施設の地震対策とは?
そこで生産されるモノや規模により異なるワークフローやプロセスを持つ生産施設。
地震対策についても、一般のオフィス等とは異なる「トータルエンジニアリング」の視点での計画が必要となります。

大成建設株式会社
設計本部
先端生産施設ソリューションリーダー
寒河江淳二
生産施設の補強方法とポイント
現実に生産施設の耐震化を進めるにあたって最も大きな課題は、様々な生産機器本体や、それらを構成する補機、配管等に関しては公的で明確な耐震基準がないのが現状であり、原材料をストックしておく容器やボンベ、出来上がった製品のストック等についても同様であるということになるでしょう。当然のことながら、公的基準がないからといって、対策をしなくてよいということにはなりませんが、一定の根拠に基づかない、別々の対策を行ったのでは、果たしてそれがどこまで有効なのか?という判断も難しくなってしまいます。
これまで述べたように、的確かつ費用対効果の高い地震対策を行うには、全体を通してガバナンスを持ち、一つの目標のもとで「一貫した取り組み」が求められます。
そのためには、
1.対策の目標、目的を明確にする。
2.生産のワークフロー分析を行い、ボトルネックを洗い出しておく
3.同時に、生産機能の構成要素についての耐震性能を共通の指標のもとに行う
4.施設の構造的な耐震補強は最低限必要なこととして最初に取り組む
5.診断、検討、計画は個別の要素ごとではなく、全体的なプロジェクトとして行う
などが必要であり、成否を決定する要因となります。
基本となる構造体の対策
旧基準鉄骨トラス造の構造的特徴と補強方法
鉄骨トラス構造とその補強方法例
建築基準法改正(1981年)以前の古い鉄骨造タイプの工場は、平面が長方形の大きな空間を持ちアングル等の単材を接合したラチス構造のものが多くみられます。短辺方向は導線として空間を確保する必要があるため、構造壁は建物外周部に集中しており、一般のオフィスビルなどと比べてかなり特徴的な構造を持っています。
補強方法としては、各部材そのものを補強する方法と、構造全体を補強する方法とがありますが、短辺、長辺それぞれの特徴に合わせ、異なる補強方法が必要となります。
短辺方向では主として、柱と梁の接合部に強さと粘りを持たせるための補強を行います。構造材自体の耐力不足も補う形で全面にプレートを溶接するのが一般的な補強方法ですが、接合部の補強が困難な場合は梁下に余裕があれば方丈を設けて必要な耐力と合成を確保します。柱に対しては柱脚部にコンクリートを打設し、アンカーボルトを保護すると同時に剛性を確保します。
一方、長編方向では建物の使い勝手を損なわない限り、必要なだけX型のブレースを設置しますが、補強のバランスなどにより、フォークリフト等の走行車両の導線にかかるような場合は空間を確保するため、マンサード型や逆V字型のブレースを用います。また、柱材の長辺方向は通常弱軸側となり座屈しやすいため、階高中央付近に座屈止めの補強材を設け柱の耐力を向上させます。
設備機器の対策
転倒防止と振動影響の防止
重量機械 耐震固定
防振スプリング 耐震固定
防振パッド 耐震固定
フリーアクセスフロア 耐震固定
設備の補強として、まず必要なのが機器の固定ですが、機器によっては微振動対策など、日常的な防振処理も同時に施した方がよいものもありますし、機器自体が振動するもの等は固定によって床への影響を与えてしまうものもあります。
このように、対象物の特性や設置環境ごとに耐震対策の方法は異なるため、最適な対策を行うためには「装置耐震」についての豊富な経験に基づいたノウハウや技術力が求められます。
実際に機器を固定する方法としては、まず単純に床へ固定する方法があります。特に重量機器に関しては、すべり移動等による被害を防ぐ上でも質量に応じた強度が確保できる様、ボルトの径や数量等を計算し適正に固定します。
次に、微振動を嫌う機器や機器自体が振動する場合は間に防振バッドを挟む方法を採ります。また、防振スプリングで振動を緩和する方法もあります。振動の影響は機器自体と固定箇所を通じて伝わる躯体への影響の両面を考慮する必要があるため、設置と施工にはディティールや精度が重要になってきます。
さらに、固定すべき場所がフリーアクセスなどの二重床の場合や床材の強度が不足している場合は、下地を鉄骨で補強する等の固定方法を採ります。
機器の固定は一カ所あたりの単価も安く、費用対効果の非常に高いものですが、機器自体が持つ耐震性や使い勝手等と併せて計画する必要があります。
また、逆に固定によって、大地震時には機器自体に大きな加速度が加わり装置内部が損傷する可能性があるため、特にクリティカルな生産ラインなどでは免震による対策を視野に入れ、慎重に判断することも大切です。